
日本には全国各地に多種多様な温泉がありますが、そのなかでも特に歴史的価値が高く、泉質・知名度ともに抜群の3つの温泉地が「日本三大温泉(日本三名泉)」として知られています。
その3つとは、兵庫県の有馬温泉、群馬県の草津温泉、岐阜県の下呂温泉です。本記事では、それぞれの温泉がどのように選ばれ、どんな特徴を持ち、実際に訪れる際にはどのように楽しめるのか、歴史的背景から泉質、観光スポットまで徹底的にご紹介します。
「日本三大温泉」あるいは「日本三名泉」と呼ばれる有馬・草津・下呂。これらが三大温泉とされる根拠は、室町時代の僧侶・万里集九と、江戸時代の儒学者・林羅山が残した文献にあります。
万里集九は室町時代に諸国を行脚し、その旅の記録を『梅花無尽蔵』という書物に残しました。その中で、有馬・草津・下呂の温泉を称賛したことが始まりとされています。
林羅山は江戸幕府の重臣でもあった学者で、これら3つを「天下の三名泉」と呼び、歴史的・文化的にも高い評価を与えました。林羅山は温泉をただの娯楽ではなく、「霊湯(れいとう)」として尊いものと位置づけ、治癒力や精神的な癒しの側面からも重要視したのです。
こうした歴史的背景を経て、単に湯の量や温度だけでなく、文化的な価値や豊富なエピソードが重なり合って日本三大温泉と呼ばれています。
温泉にまつわる“三大”や“三名”の呼び方は複数存在し、よく混同されがちです。代表的なものとしては以下があります。※それぞれの温泉の選定基準については地域や文献によって諸説あるため、一般的な内容として参考にしてください。
日本最古の温泉として、歴史書『日本書紀』や『風土記』にその名が記載されました。
・有馬温泉(兵庫)
・道後温泉(愛媛)
・白浜温泉(和歌山)
療養効果が高い温泉として知られています。
・有馬温泉(兵庫)
・草津温泉(群馬)
・松之山温泉(新潟)
つまり、「日本三大温泉(日本三名泉)」= 有馬・草津・下呂という組み合わせと、「日本三古泉」や「日本三大薬湯」で選定される温泉地は、基準となる歴史的背景や効能の違いによって別物であることがわかります。
旅行先を検討するときには、これらの違いを把握しておくと、自分の目的に合った温泉地がより選びやすくなるでしょう。
関西圏だけでなく全国的に高い人気を誇る有馬温泉は、金泉と銀泉という2種類の泉質を同じエリアで楽しめるのが最大の魅力です。実は、泉質の異なる温泉が集まっている温泉地は珍しく、同時に複数の効果が期待できます。
赤褐色の湯が特徴。鉄分と塩分を豊富に含むため、体を芯から温める効果があり、冷え性や疲労回復にぴったりです。
無色透明でシュワシュワとした炭酸を含む湯や、微量のラジウムを含む湯があります。血行促進やリラックス効果が期待でき、肌触りがやわらかいのが特徴です。
日帰り入浴を気軽に楽しみたいなら、公衆浴場の「金の湯」「銀の湯」がおすすめ。いずれもリーズナブルな料金設定で、伝統ある有馬の湯を満喫できます。さらに少し贅沢したい方には、大型施設の「太閤の湯」がおすすめ。名前の通り、豊臣秀吉ゆかりの地に建つスパ施設で、露天風呂や岩盤浴、エステなどが充実しています。
有馬温泉の街歩きでは、石畳の風情ある通りを散策しながら、豊臣秀吉が築いた「太閤の湯殿館」や、紅葉の名所として知られる「瑞宝寺公園」へ足を伸ばすと良いでしょう。温泉の歴史とともに、四季折々の自然美を満喫できます。
温泉とともに注目したいのが、有馬温泉ならではのグルメです。
有馬を代表する名物。ほんのり甘く、サクッと軽い口当たりが魅力で、湯上がりのおやつやお土産に最適。
昭和を感じさせるレトロな瓶に入った炭酸飲料。温泉街の散策中に飲むと格別です。
また、創業数百年クラスの老舗旅館から気軽に立ち寄れるモダンなカフェや割烹料理店まで、充実しています。神戸牛を使った料理を提供するお店もあり、温泉×グルメの贅沢な組み合わせを楽しむには最高のエリアと言えるでしょう。
続いてご紹介するのは群馬県の草津温泉。日本一の自然湧出量を誇り、草津のシンボル「湯畑」を中心に、湯けむりがもうもうと立ちのぼる光景が魅力的です。
草津温泉の源泉はpH2前後の強酸性泉。そのため殺菌力が強く、皮膚疾患や切り傷、関節痛などに効果が期待できるとされています。また、美肌効果も高いことから、女性を中心に幅広い年代の方に人気です。
ただし、酸性度が高い分、入浴時には注意が必要。いきなり長湯をすると肌がピリピリと刺激を感じたり、湯あたりを起こしたりすることもあります。まずはかけ湯で体を慣らし、こまめに休憩をとりながら浸かるのがおすすめです。
草津には数多くの共同浴場が点在し、その多くが無料で開放されています。地元の方が利用されることも多いため、マナーを守りながら、ぜひ本場の湯を体験してみましょう。特に湯畑周辺は足湯も整備されているので、観光の合間に気軽に立ち寄れます。
さらに草津を訪れたら、ぜひ「湯もみ体験」にも挑戦してみてください。江戸時代から続く伝統で、板を使って熱い湯を適温まで冷ます作業を近年観光客向けにアレンジしたものです。湯畑周辺のショーでは、地元の方による湯もみの掛け声やパフォーマンスも楽しめ、草津ならではの文化に触れることができます。
最後にご紹介するのが、岐阜県の下呂温泉。有馬・草津と比べると山間部に位置するため、飛騨川の清流や周囲の豊かな自然とともに温泉を楽しめるのが魅力です。
下呂温泉には、傷ついた一羽の白鷺が飛騨川の河原で温泉を発見したという「白鷺伝説」が伝わります。この伝説は三名泉としての由緒を彩るエピソードとして知られています。
泉質はアルカリ性単純温泉(pH9.2)で、石鹸のような滑らかな触感から「美人の湯」として親しまれます。美肌効果に加え、神経痛や疲労回復も見込めます。
温泉街は飛騨川沿いに広がり、無料の足湯や手湯が点在。散策途中には白鷺をモチーフにした像や、合掌造りの「下呂温泉合掌村」、温泉の歴史を学べる博物館もあり、一日中楽しめます。
春:温泉寺の桜、川沿いの花見散策。ひんやりとした山の空気と桜のコントラストが美しい季節です。
夏:避暑地としても人気。飛騨川や渓谷でのアクティビティや、夏祭りの屋台・花火大会を楽しめます。
秋:紅葉シーズンには合掌村周辺が色づき、夜にはライトアップイベントが開催されることも。
冬:雪景色の中で浸かる露天風呂は格別。温泉街には合掌造りの建物を移築した下呂温泉合掌村があり、冬ならではの風情を堪能できます。
さらに、グルメを堪能したい方には地元ブランド牛の飛騨牛が一押しです。温泉街に点在する旅館やレストランでは、ステーキ・しゃぶしゃぶ・朴葉焼きなど、さまざまな調理法で絶品の飛騨牛が味わえます。
日本三大温泉として長い歴史と豊富なエピソードに彩られた有馬温泉・草津温泉・下呂温泉は、それぞれに異なる泉質と独特の文化的背景を持ちます。
旅行プランを立てる際には、それぞれの温泉地の泉質・雰囲気・周辺の観光スポットなどをじっくり調べ、自分の目的や好みに合った温泉地を選ぶことがポイント。日帰り入浴で気軽に訪れるもよし、贅沢に旅館やホテルで数日間の湯治を楽しむもよし。さらに、季節を変えて再訪すれば、また違った風景と温泉の魅力を再発見できます。
温泉は古くから治療や保養の手段としても重宝されてきました。歴史に裏付けられた“霊湯”に浸かることで、身体だけでなく心もあたたまること間違いありません。ぜひ日本三大温泉を巡り、豊かな自然と伝統文化、そして何より極上の湯に癒される旅を満喫してみてください。